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2020.10.14

「マイクロソフトは働き方改革もテレワークもやってない」その真意とは?

イベントレポートオフィス分散採用強化働き方改善

働き方改革の一環として推奨されてきたテレワークは、今年は新型コロナウイルス感染症対策としても取り入れられ、ますます注目を集めています。

しかし、本来のテレワークの意義や企業にとってのメリットが見落とされてしまっているのではないか、今回は、先進的事例で知られる日本マイクロソフト社のビジネス プロダクティビティ アドバイザーである小柳津さんをオンラインイベントにお招きし、働き方改革の本質について考えていきます

「働き方改革とマイクロソフトがやってきたことは違う」

マイクロソフト 働き方改革 画像
イベント中の様子

小柳津 篤さん:

日本マイクロソフト株式会社(以下、マイクロソフト)の小柳津 篤でございます。よろしくお願いいたします。

今日は私たちが何を課題に感じどんな試行錯誤や失敗を経て、現在どのような状況にいたっているのかを、しっかりとご紹介ができればと思っております。

私はマイクロソフト社歴が長く、今年で26年目ですが、その前は日本企業におりました。昭和の働き方というのを、ある意味最後に叩き込まれた「昭和のおじさん」という感じで、日本人がやってきたことや日本人の大切にしてきたものも含め、私自身も経験してきた覚えがございます。

そこで今日は「端から見て格好よさそうな外資系企業をチャラチャラと紹介する」のではなく、私のような「純粋な日本のおじさん」が、現在何をやっているのかということを含めてしっかりとお話をしたいと思います。

私はこういった話をいろいろなところでしていますが、「それはマイクロソフトだからでしょう」、「いやいやIT企業の特徴なんじゃないですか」、「やっぱり外資系は違いますね」などと、よく言われます。当然私が例として挙げた3つが、これからのお話に影響がないとは言いませんが、それらのみを理由にして社内のいろいろなものが動いているわけではありません

今日お話しするのは日本マイクロソフト株式会社という、日本の法人、ほとんど全員が日本人で、ほとんどの人が中途採用の組織です。

そこで1つお願いがあります。まずは我々がやっていることをフラットに聞いていただいて、その私たちのやっていることを「外資だから」、「マイクロソフトだから」、「ITだから」という色眼鏡をかけずに、一旦見ていただくといいと思います

働き方改革とマイクロソフト社の変革、2つの違い

マイクロソフト 小柳津さん
イベントでお話される小柳津 篤さん

まず当社の働き方について、色々と誤解をされていることが多いので、そこからお話をしたいです。

ネットで私たちの記事を見た方もいらっしゃるかもしれません。恐らく日本において働き方改革という文脈では、われわれが一番取材されていると思いますが、実は働き方改革はやっていないのです

それから、実はテレワークもやっていません。そもそも我が社に在宅勤務制度がありません。こうしたいろいろな誤解がありますので、そこからお話をしたいです。

働き方改革と我々がやってきたことは、大きく分けて二つの点で違います。

まず1つめの違いとして、マイクロソフト社の変革と働き方改革では、時間軸が違います
「働き方改革」は安倍政権の造語です。第2次安倍政権というのは2012年12月から始まっています。1億総活躍の第1回国民会議は2015年です。働き方改革という言葉が広がったのが2016年。大手広告代理店の痛ましい事件が明るみに出たのが2016年の秋、オリンピックも4年後に迫る、といった話があり、ここ数年間はこの「働き方改革」というテーマが非常によく扱われます。

一方で、私たちの変革は「ワークスタイルイノベーション」というものです。これはいつが始まりなのか、なかなか特定するのが難しいのですが、少なくともグローバル組織が最初にできたのが2002年ですので、そこから数えても18年間続いています。当然ですが時間軸で見たときには安倍政権の「働き方改革」は、全く関係がありません

それから2つめの違いとして、目的が大きく違います
私は行政のいろいろな委員もやっていますが、総務省、経済産業省、厚生労働省と、こういった行政の方達が非常に働き方改革を推進していらっしゃいます。公開されている事例ももう300件を超えています。

行政が何のために働き方改革をやるのかというと、実はそこにはいろいろな背景があります。
例えば女性の労働力率M字カーブ問題の対応ですとか、産前・産後、育児介護、時短勤務、オリンピックだから時差出勤と、最近だと「パンデミック」、「家からテレワーク」といった話がいっぱい書いてありまして、現状だけを見ると私がいま指折り数えたものは、我が社では全部対応できています。

ここだけ見てしまうとマイクロソフト社は働き方改革のモデル企業のように見えます。実際にそういう取材はよく受けます。しかし、モデル企業を目指したわけではありません。

私たちは18年前に「仕事をさっさとやる」目的で「ビジネスプロダクティブアドバイザー」というチームを作りました。「ビジネスプロダクティブ」とは、簡単に言うと生産性・効率です。もっと分かりやすく言うと「スピード」です。「さっさとやる」、つまり生産性・スピード・効率です。実はこれらは今でももっとも大事なものです。

この後もお話しますが、いろいろな紆余曲折を経て試行錯誤と失敗を積み重ね、これらがみな改善しました。

このことは成果としては非常にありがたいし、重要視もしています。ただし目的として当初設定したものではありません。ですから今の説明だけでも行政の働き方改革とは、18年前から仕事のスピードを求めて変革をしたという私たちと大きな違いがあります

昭和の働き方をしたいわけでもなく、テレワーク「だけ」したいわけでもない

マイクロソフト 小柳津さん 資料

テレワークを「やっていない」という理由をご説明します。
私たちが今現在どういう毎日になっているかというと、上の図の右側の状態です。先週も取材を受けましたけれども必ずこう言われます。
「いやー、マイクロソフトさんはいつでも・どこでも・誰とでも働いてますね」。

家でもスタバでも電車でも、歩きながらでも、当然会社でも、ときにお客様先でも、確かにやっています。意見交換も情報共有もネットワークにもチャットも本当にやっています。
そのため「テレワークがよくおできになっていますね」と取材の度に言われますが、これも誤解です

皆さん「テレワーク」とは辞書的な意味でどういう意味かご存じでしょうか。辞書的にはテレワークというのは、在宅・モバイル・サテライトといわれます。揚げ足を取るまでもなく、現場には行かない、会社には来ない。ただ、昭和のおじさんの私としては、そんなことはありえないと。「現場には行け」と「会社には来い」と思う節があります。

でも私たちは気づいていることがあります。

あの昭和の時代にやった「ワイワイガヤガヤ、大部屋で同じ釜の飯を食う、徹夜で頑張る、仕事=出勤、会社にいないやつは休み。」、これと同じではないんです。いろいろな選択肢を使って意見交換も情報共有もネットワークにもチャットも「早くやりましょうね」という考え方をとり、我々は決して現場に行くことや会社に来ることを選択肢から除外はしていません

ですから私たちは、東日本大震災・コロナ禍でも社員が全く会社に行かなくても仕事ができることを大きく2回も確認していますが、品川の本社オフィスを解約する気は全くありません。なぜかというと人は、直接同じ物理空間で関わり合わなければいけないことがあるからです

けれども昭和みたいにそれだけで全部やりたいとも思っていないし、やれとも言っていません。選択肢と多様性の話です。今日は皆さんになぜ私たちが右の状態になるような組織マネジメントが実践できたか、ということをしっかりお話をしたいと思っています。

「福利厚生のため」の働き方改革とテレワークは定着しない

マイクロソフト 小柳津さん 資料

ちょっとその前に、上図の左側を見てください。
よく日本の企業がやっている働き方改革です。「弱者救済・福利厚生・困っている人を助けてあげる」、気持ちは分かります。良い、悪いといった話はしていません。「右と左は違う」ということを言っています。

当初私たちは左から始めました。当初というのは2005年ぐらいの話です。今から15年前は当然右のような社会的な環境やインフラや技術が整っていません。ですから、当然ですが左のようなことをやったんです。2007年にはこの左の下の2人を助けられる環境を整備しました。環境とは、図の左下の2人を助けるための制度・ポリシー・手続き・ICTです

この4つが整えば、理屈上はこの左の下の2人は助けられたような気がするのですが、結果は駄目でした。なぜかというと、「雰囲気」の問題で取りづらいんです

当時はすでに平成でしたが、価値観や習慣は昭和な感じがプンプン漂っていました。先ほど申し上げた通り昭和の時代は、「働く」といえば「ワイワイガヤガヤ、同じ釜の飯を食う、徹夜で頑張る、仕事=出勤」というイメージです。事実としても、みんな毎日同じ電車に乗って同じ場所に行っていたため、仮にこの左の下の2人を支えるような環境があったとしても、制度を利用したい人が申請はしづらいです。

申請しづらい人たちはどうなったのかというと、みんな辞めていきました。元々流動性の高い職場なので、みんな無理してまでいないわけです。会社と戦う気もないので別に文句も言わず、ただ辞めていきます。どれほどたくさんの人材を失ったのでしょう。

今日現在左の下の2人のような方は、辞めませんし、辞める必要はありません。
なぜ辞めないか、制度を利用しやすい雰囲気が今は整ったからです

もちろん先ほど私が環境として申し上げた制度・ポリシー・手続き・ICTは良くはなっています。そんなに劇的に変わったわけではありません。劇的に変わったのは雰囲気です。なぜ取りやすいのかというと、福利厚生ではなくなり、ビジネスの一部になったからです。会社が儲かるために頼むから全員毎日こうしてくれと、社長がお願いしてるわけです。

左は違います。「あなたのためにスペシャル特別プログラムを用意した。特別なときに特別に使ってくれ」、という話ですね。雰囲気として制度を利用しづらいということです。

ですので冒頭で申し上げた通り、私たちは目的にしたわけではありませんが結果として女性のM字カーブの問題も産前・産後も育児介護も時短も、時差出勤も、コロナになって多くの人が出社できない、面談できない、仕事が滞ると言われている中、私たちは何も困らず仕事が続いています。

それどころか、4月7日に緊急事態宣言が出されるその直前、すでに出社率が1.7%に低下していました。

総理大臣が緊急事態宣言を出しましたので、社長も出社と面談を控えるようにガイドラインを出しましたが、社員からすれば「もうやっていますが何か?」という状態なわけです。

ただ、繰り返しますが、我々はパンデミックを十分想定した上に右の状態で上手くいったとは考えていません。ここはしっかりご理解いただけたらと思います。それでは何を目指したのでしょうか。

次の図でご紹介します。

マイクロソフト 小柳津さん 資料

これはマイクロソフトだけに当てはまらず、各自が自分の会社に当てはまる仕事の進め方として、上図の右のタイプと左のタイプがある、という話です。左側は手続き型プロセス型の仕事の進め方、右側はネットワーク型プロジェクト型の仕事の進め方です。両方あるわけです。

正直に告白します。

私のような昭和のおじさんが「素晴らしい仕事とはなんだろう」と目をつぶって考えると、未だにこの左のような状態をどうしても思い浮かべてしまいます。
素晴らしい仕事と役割があり、手続きがあり、段取り・プロセス・前工程・後工程があって、フォーマット化・マニュアル化がされている状態です。これを「真面目で丁寧で手先が器用で規律正しい」と言われる日本人が、ときには頑張って徹夜でやる、と。

実際にこの状態が素晴らしいと思われた時期があります。高度成長期です。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた時代です。

この左のような仕事を、当時の日本人達は世界で誰よりも早く誤りなく丁寧にすることが美徳とされていました。世界中の研究者や経営者が日本を見学に訪れました。そういう時期があるので、私や私より上の世代はこの左側のような日常が、武勇伝や成功体験となっている節があります。こんな感じで私は未だに心の中に秘めています。

一方で、すべての仕事があらかじめ左のように計画できるわけではありません。
少し格好良く言うと、情緒性が高く難しくて付加価値が高いことは、右側にあるようにあらかじめ役割や手続きを全部決めておけないことが多いので、「一人で頑張る」のではなく、チームやプロジェクトに成果を委ねるのです

マイクロソフトの組織マネジメントの意識とポイント

マイクロソフト 小柳津さん 資料

もう勘の良い方は察していらっしゃると思いますが、マイクロソフトの組織マネジメントはこの図の右側に軸足を移しました。

ここでポイントになるのはチーム・プロジェクト・コラボレーション、日本語的に言うと「三人寄れば文殊の知恵」、一人ではないということがポイントです。
なぜ一人ではないかというと、当社の社員が全員凡人だからです。スーパーマンなんか雇いません。勤め人をしている時点で凡人です。そもそも人数も限られています。我々は事業会社です。無尽蔵に人なんか雇えない、人数が足らない、能力が足らない、お客様の要求は高まる、競争は激しい、でも難しいことをしなければなりません。

しかし、昭和の時代のように「徹夜・パワハラ・休日出勤」みたいなことはやりたくないし、やるべきではないし、散々やったし、あんなことを次の世代に引き継ぐつもりは全くないわけです。

ただしここで大きな問題にぶつかります。
仮に社長が「我が社の組織マネジメントは右だ、三人寄れば文殊の知恵だから、皆さん難しいことを早くやってください」と、いくら叫んでもそうなりません。理由は簡単です。現場は忙しいんです。この図のように、右の仕事もありますし、左の仕事もあります。

もし、この右の仕事と左の仕事の比率を変えずに、「右を増やせ、右を頑張れ、もっとやれ」と言うと、私たちや私より上の世代がやったあの「徹夜・パワハラ・休日出勤」がまた戻ってしまうのです。非常に簡単な図式です。もし右側で組織マネジメントの活路を見出したいのであれば、左側を極限まで減らさないといけません

冒頭から申し上げている通り、私たちはよく働き方改革の取材を受けていますが、いろいろな場所で私たちが意見交換したり情報共有したり仕事をしている姿だけが、一人歩きしています。今私が申し上げたこの左側を減らすことに関してはほとんど記述がないんです。でも一番大事なのはそこです。とても大変です。当然血も流れるでしょう。それでもやるのです。

無くせる仕事は無くすための3つのアプローチ、BPR・BPO・AI

どんな企業にお勤めのどんな職業の方でも、なくせる仕事はあることを認めませんか。少なくともマイクロソフト社には結果としていっぱいありました。「あの手続きはなくていい、このプロセスを飛ばしても回る、この承認行為は何段階もなくてもいい」というようなことは、実はこの左側の仕事の中にたくさん含まれます。

簡単ではないけれど、なくせる仕事はなくしたい場合、どうすればよいでしょうか。解決策としては3つあります。

まず1つめは、整理整頓・断捨離、格好良く言うとビジネス・プロセス・リエンジニアリング(BPR)みたいなことをしっかりやります。

ただどう考えても全部なくせるわけではないので、2つ目のアプローチとしては人にやってもらうということを考えます。業務委託とビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)です。10年〜15年前までうちの社員がやっていたことを、大連やシンガポールなどの海外で自社の社員ではない人たちが、ものすごいスピードとクオリティーで交代しながら24時間やりました。とても社員ではかないません。先ほどの断捨離と違って仕事はなくせませんでしたが、正社員の手からは仕事を離しました。

もう一つ大きなアプローチは、機械にやってもらうことです。

AI・ロボット・RPAです。これがこの数年間かなり成果が出てきました。数年前までうちの中間管理職、たたき上げの部門長が「これこそ俺の仕事だ」と思っていたような意思決定や管理業務、今はなんとAIがやっています。

とはいえコンピューターの会社だからといって、闇雲にAIを使ってるわけではありません。うちはグローバルで仕事をしている事業会社ですから、事業活動に効果があると思われるまではAIなどの技術があったとしても使いません。十分にAIのクオリティーとたたき上げの部門長のクオリティーをしっかりベンチマークして、AIが上回ったと認められたところから業務を移していますが、それでもかなりの量、もうすでに人間からAIとロボットに移っていきました

ただ、いずれにせよ今申し上げた3つのアプローチ、断捨離、ビジネス・プロセス・アウトソーシング、AIやロボットなどの機械への移管。こういうことを通じてとにかく左を少なくし、右を増やしたかったわけです。そして実際に右を増やしていきました。

ここまでの話が一旦成立したと考えてみてください。私たちは組織マネジメント上、図の右を目指したとします。右を目指したんだったら今度はこれが本当に毎日展開できるよう、どうすればこの右側が、効率的に効果的に継続的にできるかを考えないといけないです。それを考えていったという話です。

試行錯誤と失敗を色々と繰り返しましたが徐々に、この右の状態、「いつでも・どこでも・誰とでも」意見交換も情報共有もネットワークにも意思決定もチャットもオンライン会議もできるようになっていき、気がついたら産前・産後もパンデミックなど、いろいろな問題への対処も含めて状態が良くなっていきました。

ただ繰り返しますが、願っているだけではこのように実現はしません。続いてどうすればこういった状態を実現できるのか、ということに話を移していきます。

そのペーパーレス化は意味があるか?ムダな業務がある限り電子化は夢のまた夢

ここからは実装論です。改めて私たちがやりたかったことは「人手が足りない、たくさんの要求が高まる、競争が激しい、物事が変わっていく、難しいことをもっとやらなければいけない。でも徹夜も休日出勤もしたくない。」ということでした。

結局私たちが行き着いたのは、「いつでも・どこでも・誰とでも」の三人寄れば文殊の知恵。ここにだんだん近づいていきたかったわけです。

何が必要でしょうか。

まずは上の図の1番をご覧下さい。
当然ですが、いろいろなことが電子的に扱われないと「いつでも・どこでも・誰とでも」にはなりません。今もコロナ禍にあって緊急事態宣言で出社・通勤ができなくて、さまざまな会社のさまざまな仕事が滞っています。その多くの理由が「いや、まだ伝票を使っていたんです」、「いや、判子が押せないんです」といった話です。そこで「では電子化・ペーパーレス化しましょう」という話をよく聞きます。
やらないよりはやった方がいいと思いますが、私たちはペーパーレス化でものすごく失敗しています

続いてその点についてお話しておきたいと思います。

マイクロソフト オフィス
2009年当時の マイクロソフト社オフィス

10年前の私たちのオフィスはどんな感じだったかをお見せします。10年前は新宿オフィスにいましたが、キャビネット・ロッカー・バインダー・机の横に段ボールがありました。たくさんの紙を大量に使っていたのです。

でも皆さんに正直に申し上げますが、この写真に写っている段階で、すでにペーパーレス化活動を「やった後」なのです。もう一度言います。「ペーパーレス化活動をやった果て」にこの状態でした。なぜそんなに紙が減らなかったのでしょうか。

この頃実施していたペーパーレス化活動というのは「目の前の伝票をPDF化する」、「キャビネットの代わりにファイルサーバーを使う」という感じです。表面上は業務の電子化・ペーパーレス化に見え、一瞬紙が減ります。でも本当は減りません。なぜかというと、仕事がなくなってないわけです

仕事がなくなっていないと、その仕事の課程で確認・共有・保存や説明のためにいずれその一枚の伝票が必要になります。ですから当時のペーパーレス化活動では、業務自体を電子化することはほとんど考えていませんでした。でもここからの10年間は違います。今は品川オフィスですが、キャビネットもロッカーも机の横の段ボールも、何にもありません。

マイクロソフト社 オフィス 2020
〜2020年マイクロソフト社 オフィス

この10年間で私たちの身の回りから紙がなくなったのは「ペーパーレス化活動」のおかげではありません。紙を生み出していた「仕事自体」がなくなったのです。手続き・プロセス・段取り・報告・入力といった仕事です。仕事自体がなくなれば、その仕事の課程で出てきた説明や記録・保存・確認というような仕事が生まれないので、結果として紙が生まれなくなります。

見ていただいた通り、電子化は必要なのです。もちろん紙や判子を使うよりは、ワークフローやPDFファイルにした方がよさそうに見えますけれども、皆さんにやっていただきたいのは、仕事自体をなくすことです。私たちが本当の改革として自社を変えられたのは、仕事自体をなくしてきたからです。仕事自体をなくしてきたのが非常に大きいです。

 

啓発活動では変わらない。行動・体験から従業員の意識を変える

便利で安全でなければ、下の図の右側の状態にはならないです。なったとしても続かないということです。これは私自身が一従業員としてすごく実感します。私は「いつでも・どこでも・誰とでも」、旅行中でも結構いろいろな場所で仕事をしますが「そうしろ」と頼まれたからといってそうはしません。端的に申し上げてそもそも便利でないと「いつでも・どこでも・誰とでも」仕事をやりたくはないです

この右側の状態というのは人によってすごくリスクや懸念事項を感じます。
例えば最近のうちの社員にはさすがにいなくなりましたが、「家で仕事していたら上司にサボりと思われるんじゃないか」、逆に家で仕事をしてたらとても集中できますので「労働強化になるんじゃないか」と。「スタバで仕事してたら情報漏洩になるんじゃないか」、「新幹線で会議していたらサイバーアタックを受けるんじゃないか」と。

当然ですがこういった不安が放置されていると、やりたくないですし、やり始めても続けたくないので、この右側の状態を継続しようと思うと利便性と安全性の両方が高い水準にないといけません。

よくこの問題に関して「どっちが大事ですか?」とトレードオフを問うような質問も受けます。どちらも大事なのでトレードオフもできず、簡単な問題ではないです。例えばマイクロソフトのソリューションはこの利便性と安全性を包括的に運用するという意味で、恐らく世界で一番優れています。

私がここで働いているのもそれが1つの理由ですが、ただ残念ながらICTだけでこの右側の状態を完璧にコントロールはできません。あらゆる組織マネジメントの取り組みをすべて注ぐ必要があります。

例えば「三人寄れば文殊の知恵」の状態を実現したいとします。「いつでも・どこでも・誰とでも」、三人寄れば文殊の知恵ができるためにどのような雇用契約が必要でしょうか。どんな就業規則が必要でしょうか。どういった労務管理をするべきでしょうか。この図の右のような状態にある人たちをどのように業績評価をするべきでしょうか。

この右の状態を理解してもらうために、どんな教育や抑止力としての罰則規定を取るか、当然ICTも含めて組織全体でこの右側を真に支えないといけません

さらにもう1つ面倒くさい話があって、それが図の3番です。
なんとうちの社員、1番と2番があるのにまだ右の図の状態になりませんでした。そのくらい日本人が何十年も続けてきた「仕事=出勤」という習慣はこれほど強固かという程に、なかなか変わりませんでした。図の1番と2番があってまだ右側の状態にならないときに、私たち推進チームはこう考えました、「意識改革が必要だ」と。

同じような話を散々いろいろなところで聞きますが、私たちの体験は違いました。この意識改革が間違っていました。1番と2番があるのに右側の状態にならないので、これは説明して説得して議論して理解を求めて、納得を得ようとしました。社長に訓示してもらってニュースレターやビデオを流して、職場にポスターを貼って、カードを配って、説明会を実施してマニュアルを配りました。いろいろなことを散々やりましたが、結局従業員は人の話を聞いてない、というのが正直なところです。

そして途中で「意識改革ではない。行動変容が先だ」と気がつきました
これに気がついたのは東日本大震災、今から9年前です。都内の公共交通機関が止まり、電話も止まりました。しかし、インターネットは動いていました。インターネットが動いていて、当時すでに図の1番と2番が一定の水準を超えていました。

理屈の上で言えば会社に来なくても仕事はできるはずです。ですから当時の社長はそれを選択しました。

「社員の皆さん、会社に来ないでください。でも臨時休業でも自宅待機でもありません。自分と自分の家族の安全が確認できた場所で、すべての仕事を再開してください。」

従業員はびっくりです。一番びっくりしたのは私たち推進チームでした。品川本社の移転計画を立てるときに、オフィスに従業員が来ない想定などしたことがあるはずありません。当然練習もしたことがなければ何が必要かなど、検討したこともないです。しかしあの時期であの状態でした。やるしかなかったのです。

さて、やってみてどうなったかというと、何も困りませんでした。
そのことに「こんな選択肢があるんだ!」と、びっくりしました。本当にびっくりしました。

さらにびっくりすることがあります。1週間くらい経った頃にいろいろな人達がこう言い出しました。
「これ、いいな。」

着替えていないし、満員電車に乗ってないし、ちょっと昼寝したし、家族と食事したし、「ぜひ来週も続けよう」と。

私としては「ちょっと待て、どれだけ今まで説明したと思ってるんだ」と思いました。どれだけ説明して説得しても「やりたくない、やれない、やるべきじゃない」と言っていた従業員が、やってみたら気が変わるわけです。行動と体験をした人は、何かに気がついたり何かを意識したり理解したり、何かを期待します

これが本当の意識改革です。私たちのチームがしていたことは、順番が逆でした。9年前にこのことに気がつきましたので、以降は推進側が啓発活動を社内で実施するときは、基本的に全部体験型にしました

上の図の1番と2番と3番が重なって2013年後半から2014年くらいからです。この右側の状態が当たり前になっています。やればやるほど「むしろこっちがいい」と、従業員の意識の改革がついていきました。今となっては誰一人、昔のようにやりたいと言わなくなりました。

最後に

働き方改革、コロナによる緊急事態宣言から一気に加速したといわれるテレワークの導入。本当の働き方改革とは、行動・体験から変える意識改革、オフィスのあり方など現状の課題が見えてきました。

次回は小柳津 篤さんと WeWork Japanの最高戦略責任者(CSO)高橋の対談の様子をお伝えします。

小柳津 篤さん 経歴
日本マイクロソフト株式会社ビジネス プロダクティビティ アドバイザー。1995年にマイクロソフトに入社、2002年より生産性向上やワークスタイル変革に関するプロジェクトをサポート。2009年からはエクゼクティブアドバイザーとして働き方改革に関する多くの提言を行っている。2014年より働き方改革推進の国民運動である「テレワーク月間」において実行委員を務めている。

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