
公開日:2020.11.09 | 更新日:2020.11.09
「ベテラン世代こそ若者の話を聞くべき!」マイクロソフトが実践する、組織マネジメントとコラボレーションを促す施策とは?
働き方が多様化していくのと並行し、世界の労働人口の4分の1が「ミレニアルズ」と「ジェネレーションZ」になり、組織マネジメントなどを含めた働き方改革の課題が浮かび上がってきています。
前回に引き続き、日本マイクロソフト社のエグゼクティブアドバイザーである、小柳津さんよりカリキュラム・プログラムの事例に加え、WeWork Japan の髙橋 正巳との対談をご紹介します。
本記事は、イベントレポート第2弾です。第一弾の記事は以下よりお読みいただけます。
日本の会社では52~71歳の人間がいろいろなことを決めている
小柳津 篤さん(以下、敬称略):
今、私達がすごく気にかけていて、すごく大事だと思っていることがありますので、それを皆さんにご紹介したいと思います。
2025年まで、あと4年半。世界の労働人口の75%が35歳以下、要するに「ミレニアルズ」と「ジェネレーションZ」になる、という話があります。これは未来予測ではなく統計に基づいた確定的な未来です。
私は、下の絵の中では当然一番左のリモコン振りかざしておじさんに当てはまります。
事実として、この世代の間には考え方・優先・価値観などいろいろな違いがあります。人との関わり方や購買行動・消費行動も違います。
当然ICTの使い方なども違います。良い/悪いではなく、違いがあるということはまず認めた方がよいです。その上で、このミレニアルズとジェネレーションZが社会のコアとマスになるという話をしています。

それなのに多くの事業会社、日本マイクロソフト株式会社(以下、マイクロソフト)も含め、特に日本の会社はこの一番左のリモコンを振っている世代がいろいろなことを決めています。
それで良いのでしょうか?
私自身いろいろな価値観や成功体験や武勇伝や信念がありますが、上のスライドだけ見る限り、この一番左の人達の信念や価値観なんかもどうでもいいのではないか、というぐらいさほど大事ではありません。私自分にもそう言ってます。
このミレニアルズとジェネレーションZの人達が、どんな価値観・行動様式・消費行動、どういう人間関係でどうICTを使うかによって物事が決められていきますが、それはなかなか事業会社の意思決定に反映されづらい、ということを私達自身もすごく課題にして捉えています。
例えばそういう人達を集めて、公式チームを作ったり、この人達がいろいろな意見交換会やニュースレターを出したりして、もう少しハードコアなこともして社内コンサルティング活動をしてます。
この右側にある研究から提案・保守にいたるまでの流れが私達マイクロソフトのバリューチェーンです。このような中で、私達先輩社員が企画書を作ったり提案書を作ったりして、その活動のレビューをこの若者達がしています。
正直、昭和のおじさん的には「ムムム」という感じですが、この人達も経験も成長も大事だと。
マイクロソフトのメンター・メンティ制度

マイクロソフト メンター制度
私達社内で「メンター・メンティ制度」というのがあります。
これは私が転職した25年前からもうありました。上司とはまた別に誰かのお世話役・相談役をつけるというようなカリキュラムプログラムです。
これまで「年齢が高く、社歴が長く、ジョブレベルが高い男性」が若者に対してメンターをしてきたという実績があります。そこでこれを逆転させました。今はおじいちゃん・おじちゃんにこそ若者をつけて、話を聞けと。
これは、昭和のおやじ的にかなり「ムムム」と感じるんですが、先ほど見ていただいた世代交代というのがうちの社員の年齢構成だけではないわけです。つまり「『世界』の労働人口の75%が35歳以下になる」と言っているのですから、「お客様がこうなる」ということを考えると、若者の声に耳を傾けるというのはある意味カスタマーボイスです。カスタマーボイスに耳を傾けるということであれば、まだ多少心の余裕がありますのでなんとか話を聞いています。
ただ、まだこの取り組みは不足しています。
もっと急激な価値観や行動様式の変容が、世代として必ずこの世界中を覆っていきます。そこに対してもっと積極的な組織マネジメントのアプローチをしなければならないと思ってはいるのですが、それでもいろいろな日本企業さんと毎日毎日こうセッションをしてますと、我が社と比べてもはるかにもっと固定的な世代の方が、いろいろなことを決めていらっしゃいますので、そこに対する問題提起ということも含めて、最後にこちらのお話をさせていただきました。
働き方やオフィスのあり方で重要視すること

第2部、マイクロソフト・ WeWork 対談
髙橋:
改めまして WeWork Japan の髙橋と申します。
小柳津 篤さん、お話いただき本当にありがとうございます。
本当に目から鱗と言いますか、逆メンター制度やマーケットの状況をいかにアジャイルに取り入れているのかを、お話を伺っている中で感じ、非常に参考になりました。
ここからは、私と小柳津 篤さんの間でテーマを2つに絞ってありますので、それらについていろいろなお話をさせていただければと思います。
1つ目が働き方改革について、これは先ほど小柳津 篤さんから過去の安倍政権からの動きとも話がありました。
(詳しくは、別記事「マイクロソフトは働き方改革もテレワークもやってない」その真意とは? をご覧ください)
2つ目がオフラインのコミュニケーションの価値ですね。
そのコラボレーションやコミュニケーション、こういったキーワード、先ほどの小柳津 篤さんのお話でも多く出てきましたが、その辺についてお話ができればと考えております。

WeWork Japan 髙橋:
まず1つ目の働き方改革について
小柳津 篤さんの視点からその働き方改革の「真の目的」とはどういうところで、例えばこれが上手くいってるのかは何を持って判断すればいいと思われますか?
マイクロソフト 小柳津:
まず最初に答えは1つではない、というのはお伝えしておきたいと思います。それぞれの会社で目的としているもの、課題となっているもの、現状の状況を形作っている色々な環境要因や状況があると思いますので、決して答えは1つではないと思います。
ですが、少し勇気を持って言わせていただきますと、昭和の時代から例えば「シュプレヒコールをしながら赤いはちまきを締めていろいろな労働装備をする」みたいな話が実はありまして。
常に労働者側は「もっと休みをくれ」、経営者側は「もっと働いてください」。労使交渉みたいな文脈があって、その延長線上で冒頭申し上げた通り、福利厚生・弱者救済みたいなテーマで、働き方改革が使われているケースというのが実際たくさんあるんですね。
私もマイクロソフトだけでなく、いろいろな日本の企業のコンサルティングしていますが、そういう文脈で扱ってしまっているケースがあります。良い悪いではなく、やっぱりその扱い方だと弱者でない人や困っていない普通の社員からすると「なんかまたやってるぞ」という感じになっていき、正直経営者も中間管理職も現場の人も、マスの人達の改善活動にはなかなかなっていきません。
我々もそういう段階を経験しています。でも先ほどのご説明で、私達は生き残るためにあのやり方しかおそらくなかったのですが、人数も能力も足らない中で、難しいことをしなければいけないというときに、当然教育や労働者のスキルと能力を開発する「ピープル・デベロップメント」もやってみましたけど、凡人が映画のように能力や生産性が2倍3倍にはなりません。
だとすると、やはり生産性を上げるために「いつでも、どこでも、誰とでも」のコラボレーションをやらざるを得ません。多少痛かろうが痒かろうが心配事や懸念事項があろうが、背に腹はかえられないのでやろうとしますよね。

イベントでお話される小柳津 篤さん
ですから多少いろいろなことが動いていったと思います。働き方改革を考えるときにすぐ皆さん方法論のお話になるのですが、「ビジネスニーズは何だったのか」を考えていただくと浸透するかしないか、浸透しない理由は何かということも含めて少し様子が見えてくると思います。
方法論だけに目を転じてしまうと制度の良し悪しや、うちのスマホは良い・悪いといった話になっていきます。もちろんそこは検討しければなりませんが、そもそもビジネスニーズがなかったらどんな手も施してもたぶん何も変わりません。そういう全体図を見ていただくという上で働き方改革を考えることが重要でなかろうかという気がしています。
WeWork Japan 髙橋:
ありがとうございます。今の話ですと、マイクロソフトにとってはコラボレーションというのが非常に重要だと、それがビジネスニーズとして出てきたということですよね。
そういった中でコラボレーションがどれだけ図られているか、コラボレーションによってどれだけアウトプットが上がっているか生産性が上がっているかというのは、何か指標とされているものはありますか?
マイクロソフト 小柳津:
もちろんです。コラボレーションの状態を測るものはものすごく重要な指標なので、かなり細かく見ています。私達はいろいろなKPIをたくさん持っていて、気持ちやスローガンも大事ですがそれだけでなかなか変革活動って続かないんですね。
やはり、求心力が必要なんです。特に、現場の方達を長くこの件で興味を引きつけるためには求心力が必要で、その求心力の1つが実はエビデンス。エビデンス・ファクト・定量的な視点をしっかり持ち込み、なんとなくではなく「○○が何%」とか、ときには「何円」や「何人」などを、しっかりクリアにしていきます。コロナ禍でも「数値目標をちゃんと出せ」とかよく言われましたよね。あんな感じです。
定量的な意味ですとファクトがしっかりないと求心力が保てないので、我々はいろいろなKPIをたくさん運用しているのですね。今たぶん60個くらいを運用していますが、そのうちのいくつかは、ご質問にあったコラボレーションの状態を見ています。
例えば私は大手企業のお客様に提案活動をするという事業部にいまして、昔はかなり難しい提案もアカウントチームという単位で提案活動していて、大体これが3人か5人くらいでした。ところが、今から10年くらい前にマイクロソフトの商品がすごく幅広になっていって、提案活動がすごく難しくなっていった瞬間に、もう凡人の能力を超えてしまったので、その当時の提案活動で大体1商談に関わる人が35人を超えたのがその頃です。
最近ですとクラウドになってもっと難しくなって、もはや最近の商談は70人や80人、ときには100人っていうケースがいっぱい出てきてしまっているです。
先ほどの質問に戻りますが、やれ「コラボレーションだ」「みんなで頑張って三人寄れば文殊の知恵だ」というスローガンも大事です。ですが、こうしたエビデンスをしっかり見せていきながら、どういう状態だからどのくらい効率的に誰かと繋がらないと「そもそもあなたの勤務時間に収まりませんね」、ということをある程度ロジカルに説明していかないと、なかなか食いつきもないし食いついてもらっても継続的に求心力を持てないのですね。
社員のモチベーションや、やる気スイッチが入るように促す

イベントの様子
WeWork Japan 髙橋:
コラボレーションが増え、いろいろな取り組みをされてきていると思うのですが、それによってその社員のモチベーションだったりモラルやエンゲージメントっていうのは上がったと感じてますか?
マイクロソフト 小柳津:
これは「上がるように促した」というのが正しい言い方だと思います。
「コラボレーションをしてください、ハートウォーミングで世界は1つ、人類みな兄弟」と言ってもコラボレーションをしないわけですね。しかし、毎日を考えるとやることが難しくて自分の能力では足りていないのでコラボレーションせざるを得ません。
となったら先ほど私が申し上げた通り、いろいろな組織マネジメントとコラボレーションを促すように、仕組みが作られないかぎりやっぱり現場は乗ってこないんですよね。ですからそのコラボレーションの利便性・安全性という話をしましたし、コラボレーションをすればするほど評価が上がるような評価システムみたいなものも、そちらに寄せないとモチベーションも上がっていきません。
ただ面白いもので、人間のやる気スイッチは必ず同じ場所ではないです。
評価制度をよく話題にする方もいらっしゃいますが、評価制度一本で人の動きが変わるほど簡単な話ではない。先ほど申し上げた通り、あらゆる組織マネジメントのアプローチがコラボレーションを促すように作っていかないと、誰のやる気スイッチがどこでコラボレーションに「ポチン」と入るかというのは、最初から決めておけません。その全体感のようなものはすごく大事だと思うんです。
残念ながら私が色々お手伝いしている日本企業は、あまり全社活動になっていないケースが多いのです。自流に合わせて人事が「在宅勤務を推したい」、IT部門が「グループに合わせてチームに推したい」、総務部門が「格好良いサテライトオフィス契約したんで使って欲しい」など。
ときには社長室のCSRがちょっと「外側にいいこと言いたいんで格好良いことできない?」みたいなこともあります。やらないよりいいですが、全社活動になってないとそんな簡単に社員のやる気スイッチに点火できないような気がします。これは私達がやってみて感じたことではあります。
WeWork Japan 髙橋:
先ほどおっしゃっていたそのマスに対して変革を促す、ということを話していますよね。
マイクロソフト 小柳津:
おっしゃる通りです。
WeWork Japan 髙橋:
あとお話の中で「さっさとやる」というキーワードが非常に刺さったのですが、これをもう少し具体的にご説明をしていただけますか?何をもってその生産性を上げるということとイコールなのでしょうか?
マイクロソフト 小柳津:
元々の出発点はまさに生産性です。生産性と言うと少し格好良く聞こえてしまうと思うのですが、今だから言ってしまうと昔は無茶苦茶だったわけです。これはうちだけではなく、低迷期の外資系はみんなそうでしたよね。
滅茶苦茶に長時間勤務をやってて、当時は笹塚にマイクロソフトの本社がありましたが、24時間365日すべてのフロアの電気が全部つきっぱなしで、よく都市伝説で「会社の中にテントとか寝袋がある」みたいな話がありましたが、それが当たり前のように、本当に滅茶苦茶に「あるに決まってるだろ、君の会社にはないのか」といった感じでやっていました。
「とにかく効率を上げる、スピードを上げる、勤務時間を下げる」ということをやらないと本当にもうひどい状態だというくらいでした。
おそらく、今この話を聞いていらっしゃる日本企業の方はそこまでひどくはない、そんなところから出発する必要はないと思いますが、我々はそのくらい業務がとっちらかっているところから始めました。業務の整理整頓・標準化・効率化・スピードアップというのは、本当にやりたかったというのがまず第一です。
それから物事が段々良くなってくると、何度も言いますがやりたいことが難しくなってくるので成功率が下がります。そうですよね、難しいわけですから。イチローだって一流のピッチャーが来たら打率が下がります。
すると、トライアンドエラーを何度もやらないといけません。トライアンドエラーを何回もやらないと良い状態に近づけません。そうすると成功率も大事ですが失敗も含めて早くやらないといけないのです。最初のうちは回転数が大事で、失敗しながらでも何度もトライアンドエラーをしないかぎり物事も良くならないし、学びも獲得できないしといったところがありました。
最初はもう本当に「ぐちゃぐちゃな状態をなんとか人並みに」ということでの生産性でしたが、物事が難しくなってくると打率を上げるための効率性や回転率みたいなものも問われるようになっていき、いずれにせよ結局物事はさっさとやった方がいいということが非常に重要な視点になっています。
ですから「いつでも、どこでも、誰とでも」コラボレーションするというのは失敗も含めて、「いつでも、どこでも、誰とでも、『さっさと』コラボレーションする」という意味合いもかなり強く含んでいます。
WeWork Japan 髙橋:
そのコラボレーションというのは、社内のコラボレーションだけを指すのか社内も含めてのコラボレーションか、その両方なのか、というのはいかがですか。
マイクロソフト 小柳津:
本当は世界中の方としたいですが、なかなかできないのが実態です。
ですのでまず最初は社内のコラボレーション。次に我々がスピードを上げたいと思っているのがビジネスパートナーなんですね。
ビジネスパートナーの人達はなんだかんだいっても業務の接点があったり、ときには覚え書きや約束事を決められたり、場合によってはアプリケーションを繋げたりできます。社員ほどではないですが、私達のスピード感などコラボレーションのイメージをもう少し共有しやすい仲間なのがビジネスパートナーなのです。
さらに、もう少し広げられるのだったらお客様に広げたいんですね。一部社員ほどではないですが、半ば社員のような感じで意見交換・情報共有できるお客様がポツポツ出始めています。
これはICTを繋げてしまうという意味では誰でもできますが、先ほど申し上げた通りICTだけの問題ではなく、お互いの就業規則の問題や情報を交わすときのセキュリティポリシーの問題や契約などの問題もあります。
皆さんとマイクロソフト社員と同じようにコラボレーションはまだできないのですが、でもビジネスパートナー・お客様という順番で広がりが出始めているのは事実です。
まとめ

日本企業では現在も高齢世代中心にいろいろなことを決めている、働き方改革の改善活動ができていないなどの実情がまだまだあります。そのため社内からコラボレーションしていくことが組織において重要となってきます。
次回も引き続き、コロナ禍でのオフィスの役割と物理空間、オフラインでのコミュニケーションについてなど、小柳津 篤さんと髙橋の対談をお伝えします。
小柳津 篤さん 経歴
日本マイクロソフト株式会社エグゼクティブアドバイザー。1995年にマイクロソフトに入社、2002年より生産性向上やワークスタイル変革に関するプロジェクトをサポート。2009年からはエクゼクティブアドバイザーとして働き方改革に関する多くの提言を行っている。2014年より働き方改革推進の国民運動である「テレワーク月間」において実行委員を務めている。
髙橋 正巳 経歴
WeWork Japan 最高戦略責任者。ソニー入社しシリコンバレー勤務を経て、2014年にUber Japanに入社。執行役員社長として日本での事業展開を牽引、東京でUber Eatsを立ち上げ、WeWork Japanへは2017年に入社。2020年より現職。最高戦略責任者として日本事業の戦略立案に携わっている。